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本記事の構成

司法事実と立法事実との区別について、代表的な教科書では、次のように説明されている。すなわち、事件を解決するために必要となる「『誰が、何を、いつ、どこで、いかに行ったか』という、当該事件に関する事実」が、「アメリカ法にならって司法事実ないし判決事実」と呼ばれ、それに対して、憲法事件でさらに問題になるものとして、「法律の立法目的および立法目的を達成する手段(規制手段)の合理性を裏づけ支える社会的・経済的・文化的な一般事実」である立法事実が、対置されるのである(芦󠄀部信喜〔高橋和之補訂〕『憲法〔第8版〕』〔岩波書店、2023年〕409頁)。本記事では、この定義に従って事実を整理するが、その際、立法事実が「一般事実」であること、他方で司法事実は「当該事件に関する」という意味で特定的な事実であることを、相対的に重視する。従前、立法事実については「法令の合理性を支える」というファクターが特に重視されがちだった傾向とは(例えば長谷部恭男『憲法〔第8版〕』〔新世社、2022年〕446頁、この傾向への批判的検討として淺野博宣「立法事実論の可能性」高橋和之先生古稀記念『現代立憲主義の諸相(上)』〔有斐閣、2013年〕419頁)、力点の違いがあることに注意されたい。¶001