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Ⅰ はじめに──本記事の目的

砂川政教分離訴訟は、社寺領をめぐる明治初期以来の長い歴史の流れの先に位置するものである。¶001

判決①は、本件利用提供行為が憲法89条に違反するかを審査するに際しての憲法判断の枠組みを提示するに当たって、明治初期以来、国公有地が無償で社寺等の敷地に提供されるという状態になっていたところ、国有地については「社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律」(昭和22年法律第53号:以下、「新処分法」という)、公有地については内務文部次官通牒に基づいて、譲与等の処分が進められたが、現在に至ってもなお社寺等の敷地となっている国公有地が相当数残存しているという状況に言及している。そして、「国又は地方公共団体が国公有地を無償で宗教的施設の敷地としての用に供する行為は、一般的には、当該宗教的施設を設置する宗教団体等に対する便宜の供与として、憲法89条との抵触が問題となる行為である」とした上で、「もっとも、……当該施設の性格や来歴、無償提供に至る経緯、利用の態様等には様々なものがあり得る」とする。その一例として、多数の国公有地上の神社施設の問題が挙げられており、こうした問題が示すような「事情のいかんは、当該利用提供行為が、一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから、政教分離原則との関係を考えるに当たっても、重要な考慮要素とされる」とする。これに続いて、「国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が、……信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては、当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべき」という、いわゆる総合的判断の枠組みが示される。¶002