Ⅰ はじめに
憲法14条1項は差別を禁止する。本稿が想定する差別とは、相対的平等を前提に据えて「同じ能力・条件を持つ個人間で、障害をはじめとした特徴を理由とする不合理な別異取扱い」を指す1)。もちろん差別の定義は憲法学において他にも存在する。例えば木村草太は「人間の類型に向けられた蔑視感情や嫌悪・侮辱などの否定的な評価、ないしそれに基づく行為」が差別であると説明する。なお木村がいうには、「差別が感情や評価であるのに対し、偏見は、人間の類型に向けられた誤った事実認識」であり、「前者は後者を補強する関係にあ」るというように両者は異なるにもかかわらず、「差別は、しばしば偏見と混合される」2)。本稿は、障害者や高齢者、生活困窮者といった憲法25条に基づく社会保障法制度の対象となるような社会的弱者が抱える憲法上の差別問題に焦点を当てるものだが、この木村の定義は彼らが抱える差別問題の構造を考えるにあたり重要な視点を提供する。なぜなら社会的弱者は、そうではない者よりも「蔑視感情や嫌悪・侮辱などの否定的な評価、ないしそれに基づく行為」の対象になりやすいからである。¶001