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はじめに
山内マリコの小説『あのこは貴族』(集英社、2016年。以下、「小説」)には、先祖の代から様々なものを引き継いできた家族と、それによってかなり狭い文脈に無意識に規定される(絡めとられる)ことになる人生の群像が描かれている。そこにはある種のメリトクラシーと、それを飼い慣らし封じ込めるほど根強い、隔絶した階級的な社会構造が存在する。それは、ある時点での単なる経済的裕福さに還元されない、ひとりの人生では足りないほどの長い時間や、どのような土地・環境で人生を過ごすのかといった、複合的な要因に裏付けられたものである。¶001