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Ⅰ こども性暴力防止法の義務構造
こどもが健やかに育まれるべき教育・保育現場において、大人からの性暴力は許されない悪質な行為である。被害の回復困難性、そして、物理的・関係的に一定の閉じた現場において圧倒的な力関係の格差が継続する構造に鑑みれば、被害それ自体を起こさせない予防的な措置が求められる。¶001
教育・保育の事業者には、こどもの心身の健康を守る義務があるはずである。教育活動等にともなう社会的接触関係を基礎として、信義則上(民1条2項)、安全配慮義務が発生するほか、児童福祉法は児童が心身ともに健やかに育成されることについて保護者と国の責務を定めているが(同法2条)、学校教育法にはそうした義務を直接規定した条文はない。学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(令和6年法第69号。以下、「こども性暴力防止法」という)は、こうした曖昧な状況から一歩踏み込んで、学校設置者等や民間教育保育等に携わる事業者が児童対象性暴力等の防止に努め、こどもを適切に保護する責務を有することを明確に規定した(同法3条1項)。そして、必要な情報の提供、制度の整備その他の施策を実施する国の義務を、学校設置者等や民間教育保育等に携わる事業者がその責務を確実に果たすことができるようにするためのものと位置づけた(同条2項)。このような義務の構造が、同法の特徴の一つである。¶002