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復刻版と書かれているこの本をパラパラとめくってみた。軽妙洒脱な語り口で、食べ物の評、身の回りの出来事、友人との交流、芸道の精進などが生き生きと描かれ、いずれも深い学識と漢籍の素養に裏付けられている。驚いたことにこれが書かれた時期は、主に昭和22年から25年にかけての終戦直後の大混乱期である。あのような誰もが生活の苦しい時期に、これほどの心の余裕があったとは、ただただ感心するばかりだ。¶001

これはかなりの手練れのエッセイストの手になるものに違いないと思って著者の経歴を見ると、何とまあ、初代の最高裁判所長官ではないか。これには驚いてしまった。確かにこの本の後半には、謹厳実直な裁判官としての心得が何度となく記されている。¶002