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Ⅰ はじめに

わが国の賃金水準は、ここ30年間、継続的な賃上げが続いた先進諸国とは異なり、ほぼ停滞した1)。昨年頃から名目賃金は改善の兆しがみられるが、物価高も踏まえた実質賃金は、25カ月連続で前年比マイナスとなっている(2024年4月時点)。他方で、企業の業績は、過去最高の利益や内部留保を記録しており、表面的には悪いようにはみえない。この賃金停滞は、政策課題として近時の政権においても認識されており、平成25年度税制改正から、賃上げ部分に対して一定の税額控除を付与する税制が実施されてきた(この仕組みの税制に対して、政府の用いる名称は改正とともに変遷しているが、総称して以下「賃上げ税制」という)。今般においても、岸田文雄首相は、第213回国会施政方針演説において、「物価高に負けない賃上げ」を提示して、令和6年度税制改正において「賃上げ税制」の拡大強化がなされた。本稿では、近年の政策の柱の一つである「賃上げ税制」の内容と効果について検討を加えることとする。¶001