Ⅰ グローバル企業の知財戦略における税務の位置づけ
知的財産権は、当該権利が生み出す利益の独占を権利者に認めるものであり(独禁21条参照)、企業にとっては、市場における競争優位を確立・維持するための収益の源泉となります。そこで、グローバル企業の知的財産戦略(知財戦略)は、事業展開国において、研究開発によって創出された知的財産権を確保することが考え方の基本になります。もっとも、事業戦略的な観点からは、例えば、特許出願によって発明の内容が公開されることや、知的財産権の維持管理にコストを要すること等を考慮する必要があります。¶001
また、グローバル企業の場合、とりわけ、最終親会社が上場企業であるグローバル企業の場合には、最終親会社株主から株主利益の最大化(株式価値の最大化・投資リターンの最大化)をより強く求められますので、グループ全体で税効率を最適化することがより重要となります。もちろん、各国で適切な納税義務を果たすことは必要ですが、脱税・不適切な税負担の軽減(租税回避)に至らない限度においてタックスプランニングを行い、不必要な税負担を軽減することは、株主利益の最大化を志向すべきグローバル企業の取締役の義務(善管注意義務、会社330条)の一部であるといえるでしょう。¶002
Ⅱ グローバル企業の知財戦略に関する法務・事業戦略的観点での留意点
Q1
¶003グローバル企業の知財戦略に関する法務・事業戦略的観点での留意点を教えてください。
A1
¶004知的財産権を確保するためには、著作権を除き、知的財産の実施や使用が想定される国での出願・登録が必要です。ただし、事業戦略的な観点からは、知的財産権の維持管理にコストを要すること等も考慮し、出願・登録を行う範囲を慎重に検討する必要があります。
1 知的財産権の創出と知的財産管理ポリシー
グローバル企業が国境を越えてビジネスを展開する中では、様々な形で知的財産が創出されます。典型的には、グローバル企業が自ら研究開発を実施して、将来の製品の基礎となる発明等の知的財産を創出する場合があります。それ以外にも、各国の拠点が各国の実情に応じて製品をカスタマイズする過程で、発明等の知的財産が創出される場面もあるでしょう。各国の拠点が、それぞれの市場に応じて事業を展開するにあたり、独自の商標(ロゴやマーク)を創出することも考えられます。¶005
このように、グローバル企業においては、いつどこでどのような知的財産が創出されるのかをすべて把握することが難しく、かといって、各国に所在するグループ内企業が個別に知的財産を管理するのは非効率であることが多いです。そこで、グローバル企業の中には、知財戦略として、グループにおける知的財産管理ポリシーを策定して、一定のルールの下、特定のグループ内企業に知的財産権を集約する例が見られます。具体的には、知的財産権の集約先であるグループ内企業が他のグループ内企業との間で研究開発委託契約を締結し、集約先であるグループ内企業が研究開発費を負担するのと引き換えに創出された知的財産権を取得したり、知的財産権の価値が低いうちに集約先グループ内企業が知的財産権を譲り受けたりする等の対応が採られています。¶006