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Ⅰ M&Aにおける知的財産権・知的財産関連契約の取扱い

企業のアセット(資産)であり、競争力の源泉である知的財産権は、M&A取引の重要な要素となることがあります。知的財産権の適切な承継は、M&A取引の大きなポイントです。もっとも、M&Aでは様々な取引のストラクチャーが用いられるところ、知的財産権の承継や知的財産関連契約の取扱いについて留意すべき点は、M&Aのストラクチャーごとに異なります。また、M&A取引の内容や条件を定める契約(最終契約)では、必要に応じて、知財デュー・デリジェンス(知財DD)を通じて発見された問題点についての手当を定めます。¶001

以下では、知的財産権や知的財産関連契約について、①M&Aのストラクチャーごとの留意点、②最終契約における契約条件、③M&Aの一類型であるカーブアウト型M&Aにおける留意点について概説します。¶002

Ⅱ M&Aストラクチャーごとの留意点

Q1

M&Aのストラクチャーにより、知的財産権の承継手続は異なるでしょうか?

¶003

A1

知的財産権の承継や知的財産関連契約の取扱いについて留意すべき点は、M&Aのストラクチャーごとに異なります。

(ⅰ)事業譲渡では、個別の知的財産権ごとに譲渡手続が必要です。(ⅱ)合併や会社分割では、知的財産権やライセンス契約は包括的に承継されますが、合併や会社分割をトリガー事由とするチェンジ・オブ・コントロール(CoC)条項がないかどうかに注意が必要です。(ⅲ)株式譲渡・取得では、個別の譲渡手続は不要ですが、株主の変動等をトリガー事由とするチェンジ・オブ・コントロール(CoC)条項がないかどうかに注意が必要です。

¶004

M&Aのストラクチャーは、M&Aの目的を踏まえつつ、承継対象、手続・スケジュール、税務上の影響などを考慮して選択されます。対象会社が多数の知的財産権や知的財産関連契約を保有する場合には、ストラクチャーによっては、承継手続が煩雑になることがあります。以下では、M&Aの代表的なストラクチャーである、(ⅰ)事業譲渡、(ⅱ)合併・会社分割、(ⅲ)株式譲渡・取得それぞれにおける知的財産権及び知的財産関連契約の代表例としてライセンス契約の移転手続等について検討します。¶005

1 事業譲渡

事業譲渡(会社467条)とは、会社が営む事業の全部又は重要な一部を第三者に譲渡することをいいます。事業譲渡において、譲渡対象事業を構成する個々の資産・権利義務を譲渡するためには、個別に移転手続(第三者対抗要件の具備を含みます)をする必要があります(特定承継)。¶006