Ⅰ 知的財産権を担保とする融資(デット・ファイナンス)
Q1
¶001日本における知的財産権担保融資の現状は、どのようなものでしょうか。
A1
¶002知的財産権は事業価値の一部を構成する重要な資産であり、1990年代から、企業の多様な資金調達手法の1つとして、知的財産権を担保とする融資(デット・ファイナンス)が注目されてきました。
これまで様々な議論が積み重ねられてきましたが、少なくとも日本では、知的財産権担保融資が実務上定着したとはいい難い状況です。
知的財産権担保融資が定着しなかった理由としては、知的財産権に設定された担保を実行する際に、どの程度の金額を回収できるかが融資実行時に不透明であることが挙げられます。
1 知的財産権担保融資の必要性と実例
(1)知的財産権担保融資が求められる局面
そもそも、知的財産権担保融資は、どのような局面で必要とされるのでしょうか。¶003
例えば、資産として、不動産(土地建物など)、動産(在庫など)、債権(売掛金など)を豊富に保有している企業であれば、これらの資産を担保として、融資を受けることは難しくありません。¶004
他方、例えば、めぼしい有形資産や債権を有していないものの、技術力が高く、重要な特許権を保有している企業は、現時点では事業化に成功していないとしても、相当額の設備投資を行えば、事業として大きな売上を上げる可能性があります。このような企業は、有形資産などを担保とする借り入れができなければ、第三者から出資を受ける(エクイティ・ファイナンス)以外に、資金調達ニーズを満たすことができません。¶005
そこで、このような場合に、知的財産権担保融資(デット・ファイナンス)が有用であるとして、これまで様々な議論がなされてきました。¶006
(2)実例
現在、いくつかの金融機関が、知的財産権担保融資に取り組んでいます。例えば、知的財産権の価値評価を行う会社と提携し、当該評価会社による評価額の一定割合の範囲内で融資を実行する取り組みを行っている例もあるようです1)。¶007
また、やや特殊な例ですが、ジョイントベンチャー(JV)の出資会社がJVに資金を貸し付ける際に、JVが保有する知的財産権に担保を設定する例があります。さらに、知的財産権以外に資産を有しないスタートアップに資金を融資するにあたって、当該スタートアップが現在保有し又は将来取得する知的財産権に担保を設定した例もあります。¶008
もっとも、後述のとおり、知的財産権は資金提供者にとって理想的な担保ではなく、少なくとも日本では、知的財産権担保融資が実務に十分定着しているとはいい難い状況です。¶009