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はじめに

以下では、令和4年11月から令和5年10月までの間における知的財産法に関する裁判例について、注目すべき論点が含まれているものを中心に紹介する。事件番号を表示した裁判例は、令和6年2月下旬の時点で判例集等には掲載されていないが、裁判所ウェブサイトの判例検索システムで事件番号により検索することができる。¶001

Ⅰ 特許法

1 特許要件

⑴ 新規性

知財高判令和4・12・13(令4(ネ)10065号)および知財高判令和4・12・13(令3(行ケ)10066号)は、当事者を同じくする侵害訴訟の控訴審(前者)および審決取消訴訟の第1審(後者)であり、いずれにおいても名称を「エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤」とする発明の新規性が問題となった(以下では請求項1に係る発明についての論点のみ紹介する)。当該発明は骨粗鬆症治療薬として公知のエルデカルシトールを、非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬とする用途発明であるところ、両判決とも、出願当時の技術常識によればエルデカルシトールを骨粗鬆症患者の骨折リスクを減少させるために投与される薬剤であると当業者が認識しうるものといえ、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部である場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用に相違があることを示す記載が明細書に存しないことなどから、当該発明の用途は公知の骨粗鬆症治療薬の用途と区別されるものではないとして、新規性を否定した。¶002