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緒論

1 本連載の趣旨と特性

A. 本連載の趣旨

(a)本連載は、いわゆる「教科書」や「概説書」とはいささか趣を異にする。¶001

筆者は、東京大学在職中、法学部において23回に亙り、講義方式で「刑事訴訟法」の授業を行った。他大学に出講することもあり、10数年それらを重ねるうちに、刑事訴訟法の全体をある程度見渡せるようになり、講義のために作成・集積したノートもかなりの分量になった。¶002

そこで、親しい編集者のお勧めもあり、そろそろ教科書のようなものにめてみようと考え、講義ノートを基に準備に着手したが、いざ一書の形で世に問うことを指向して見直してみると、とてもそれに耐えるものではないことを思い知らされた。その講義ノートは、元々、最初の長期在外研究から帰国した直後に開始した初めての授業のため、僅かの期間に文字どおり自転車操業で、先達の教科書類や著作、数多くの裁判例等を手当たり次第に読みり、その此処彼処から借り集めた記述や知見、情報の断片をパッチワークのように繋ぎ合わせて、毎回の授業にかろうじて間に合わせたもので、明確なコンセプトに基づく堅固な基礎造成や躯体構築もないままえした造作に過ぎず、その後、毎回加筆・補正を重ねてきていたとはいえ、それらも、見かけ上のびを繕うだけの手当でしかなかったからである。¶003