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Ⅰ 最高裁判決

労使間合意成立の見込みがない団体交渉事項に関する誠実交渉命令の適法性

山形大学事件(最判令和4・3・18民集76巻3号283頁、労働法10)は、労使間合意が成立する見込みのない団体交渉事項(基本給平均2%の引下げを内容とする給与制度の見直し)について発出された労働委員会の誠実交渉命令を適法と判断した重要判例である。判決は、使用者の誠実交渉義務違反に対して発出される誠実交渉命令は、一般に労働委員会の裁量権の濫用にわたるものではないところ、団体交渉事項について労使間合意が成立する見込みがない場合も、使用者が誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は十分な説明や資料の提示を受けることができるとともに、組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから、誠実交渉命令を発することは、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることに資するので、合意の成立する見込みがないことをもって誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨・目的に由来する限界を逸脱するとはいえないと判断し、誠実交渉命令を裁量権濫用により違法と判断した原審を破棄し差し戻している。労使間合意が成立する見込みのない場合も、合意形成を目指して団体交渉を行うことに意義があることを明示するとともに、誠実交渉命令を含む労働委員会の裁量権を積極に解する判断として重要である。¶001