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本書は、行政行為を特定の名宛人の権利義務や地位に変動をもたらす行為として解してきた通説が、公用開始行為のような「個別に特定された名宛人をもたない行為(名宛人なき行為)」(18頁)もそれに含まれると解してきたことに対する疑問を端緒として、むしろ対物行為こそが行政行為の範型であるとの理解を提示することにより、行政行為論の視座転換を図ろうとするものである。¶001

まず序章において、上記の疑問に遭逢した著者は、その合理的説明如何を探究するために、公用開始行為の法効果及び行政行為の定義について準備的な分析・整理を行った上で、具体的課題として、①行政行為と規範定立行為の区別の基準、②物の法的地位という概念の意義、③公衆に対する規律と物に対する規律との関係を解明する必要があることを指摘する。本書の特徴として、まず特筆すべきは、このように、行政行為という行政法のコアに位置づけられている概念ひいては行政法総論の体系について、公物法(あるいは公共空間の法的規律)というこれまで学説が熱心に関心を払ってきたとは言い難い視角からアプローチする、その着眼点の鋭さや独自性、そして具体的課題設定の正鵠性であろう。¶002