Ⅰ 企業の人権尊重責任

「ビジネスと人権」は、ビジネス活動に関連して生じる人権侵害及びそのおそれ(以下「人権への負の影響」ということもある)について、企業自身が対応すべきであるという考え方である。本来、条約や法律などの法的規制の有無によって「人が生まれながらにして有する権利」が尊重されるか否か、すなわち、人権が侵害されないか否かが左右されるべきではなく、ビジネス活動に関連して生じうる人権侵害についてはビジネス活動を行う企業自身が対応すべきである。こうした国際社会からの要請を受けて2011年に国連人権理事会において全会一致で「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」という)が採択された。指導原則は、ビジネス活動においてライツホルダー(人権享有主体)とその人権を中心に据えた対応を実施するためのガイドラインであり、本稿で対象とする人権デューデリジェンス(以下「人権DD」という)(指導原則17)は、企業が人権尊重責任、すなわち、他者の人権を侵害しないこと及び侵害し又は侵害するおそれがある場合にはこれに対処する責任(指導原則11)を果たすための手法である。指導原則は規模・業種等を問わずあらゆる企業に適用されるものであり(指導原則14)、普遍性を有するものであるという性質上、具体的な実施は各企業により異なるが、各社が人権DDに取り組むにあたって重要なことは、人権DDは、ライツホルダーの人権への負の影響を認識し、これに対応するための取組であって企業にとってのリスクを特定するものではないという基本的な視点1)、及び社会的に持続可能なグローバル化に貢献するという目的に沿って指導原則を解釈する必要があるということである(指導原則の一般原則解説)。