事実
Ⅰ
Y₂社(被申立人)は、アプリ上で、飲食店、飲食物を注文する注文者、飲食物を注文者に配達する配達パートナーの三者を結びつける事業(以下「本件事業」)を運営している合同会社である。本件事業では、アプリ上で、注文者が飲食店に飲食物を注文し、飲食店がその注文に応じると、配達パートナーに配達リクエストが送信され、マッチングが行われる。配達パートナーが配達リクエストに応じると、配達パートナーは飲食店に移動して飲食物を受け取り、注文者に飲食物を配達することとなる。¶001
Ⅱ
令和元年10月3日、本件事業の配達パートナーら18名は、X組合(申立人)を結成した。同月8日、X組合は、本件事業に関する業務を行う株式会社Y₁社(被申立人)に対し、組合結成を通知し、事故の際の配達パートナーに対する補償等について団体交渉を申し入れた。これに対し、Y₁社は回答せず、A社(オランダに所在しオランダ法に基づき設立された有限責任会社)は、X組合に対し、配達パートナーは、Y₁社ではなくA社と契約を締結している個人事業主であり、労組法上の労働者ではないため、団体交渉には応じられないと回答した。同月29日、A社とともに配達パートナーや飲食店と契約を締結するなど本件事業を運営するB社が設立された。¶002
Ⅲ
同年11月25日、X組合はB社に対し、事故の補償や報酬引下げ等について団体交渉を申し入れた。B社は、X組合に対し、配達パートナーは労組法上の労働者ではないとして団体交渉を拒否した。¶003
Ⅳ
X組合は、Y₁社およびB社を被申立人として、東京都労働委員会に対し、不当労働行為救済申立てをした。B社はY₂社に商号を変更した。¶004
命令要旨
全部救済(Y₁社、Y₂社に対し誠実交渉等を命令)。¶005
Ⅰ 配達パートナーの労組法上の「労働者」性
「〔Y₁社、Y₂社らの総体である〕ウーバーは、配達パートナーに対し、プラットフォームを提供するだけにとどまらず、配達業務の遂行に様々な形で関与している実態があり、配達パートナーは、そのようなウーバーの関与の下に配達業務を行っていることからすると、本件において、配達パートナーが純然たる『顧客』(プラットフォームの利用者)にすぎないとみることは困難であり、配達パートナーが、〔本件事業〕全体の中で、その事業を運営するウーバーに労務を供給していると評価できる可能性のあることが強く推認される。」「本件における配達パートナーが労組法上の労働者に当たるか否かについては、労組法の趣旨及び性格に照らし、Y₁社らと配達パートナーとの間の関係において、労務供給関係と評価できる実態があるかという点も含めて検討し、〔①〕事業組織への組入れ、〔②〕契約内容の一方的・定型的決定、〔③〕報酬の労務対価性、〔④〕業務の依頼に応ずべき関係、〔⑤〕広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、〔⑥〕顕著な事業者性等の諸事情があるか否かを総合的に考慮して判断すべきである。」¶006
「本件における配達パートナーは、Y₁社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられており、Y₁社らが契約内容を一方的・定型的に決定しているということができ、配達パートナーの得る報酬である配送料は、労務の提供に対する対価としての性格を有しているといえる。」「配達パートナーは、アプリを稼働するか否か、どの時間帯に、どの場所で配達業務を行うかについて自由を有しており、Y₁社らの業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいえない」が、「場合によっては、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれる事情があったことが認められる」。「また、一定の時間的場所的拘束を受けているとはいえないものの、広い意味でY₁社らの指揮監督下に置かれて、配達業務を遂行しているということができる。」「そして、配達パートナーが顕著な事業者性を有していると認めることはできない。」「これらの事情を総合的に勘案すれば、本件における配達パートナーは、Y₁社らとの関係において労組法上の労働者に当たると解するのが相当である。」¶007
Ⅱ Y₁社の「使用者」性
「〔本件事業〕について、登録や契約の手続から、運用の説明・サポート、各種問合せまで、実質的に配達パートナーへの対応を行っているY₁社は、配達パートナーの労働条件等に関する〔本件の〕団体交渉事項について、配達パートナーとの契約の当事者であるY₂社と共に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとみるのが相当であり、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるというべきである。」¶008
労働者側からのコメント
1 本命令の意義等
本命令は、ウーバーイーツの配達員(配達パートナー)の労組法上の労働者性(労組3条)を肯定し、さらに、配達パートナーと直接の契約関係にはないY₁社の労組法上の使用者性も肯定した上で、X組合の団交申入れにY₁社およびY₂社が応じなかったことが正当な理由のない団交拒否に当たるとして、不当労働行為(同7条2号)の成立を認め、誠実交渉命令およびポストノーティス命令を行った。¶009
プラットフォームワーカーの労働者性は、世界各国で問題となっており、労働者性を肯定する判決も出されている。日本でも、様々な議論が行われているが、この点を判断した判決や労働委員会命令は未だ存在しなかった。本命令は、プラットフォームワーカーの労働者性に関する初めての公的な判断であり、しかも、本件事業や配達パートナーの就労実態を詳細かつ丁寧に分析した上で労組法上の労働者性を肯定しており、今後の実務に与える影響は大きい。¶010
2 配達パートナーの労組法上の労働者性
配達パートナーは、A社およびY₂社とウーバーサービス契約を締結しているが、当該契約では、両社が技術サービスの提供業者にすぎないこと、アプリを通じて飲食店から配送サービスの依頼が届き、これに応じることによって、配達パートナーと飲食店との間に直接的な取引関係が生じること(すなわち、A社やY₂社は契約当事者とならないこと)等が記載されている。会社側は、このような契約の形式を強調し、本件事業は飲食店と注文者と配達パートナーとをつなぐリード(マッチング)ジェネレーションサービスであり、配達パートナーはウーバーイーツの「顧客」であって、Y₁社らは配達パートナーの労働力を利用しているわけではないとして、そもそも労組法上の労働者性の判断基準は適用されないなどと主張していた。しかし、本命令は、労働者に該当するか否かは実態に即して客観的に判断する必要があるとした上で、ウーバーが配達業務の遂行に様々な形で関与している実態を踏まえ、命令要旨Ⅰのとおり述べて、Y₁社らの上記主張を排斥した。労組法の趣旨および性格を踏まえた妥当な判断と思われる。¶011
その上で、本命令は、最高裁2判決(国・中労委(新国立劇場運営財団)事件・最判平成23・4・12民集65巻3号943頁、国・中労委(INAXメンテナンス)事件・最判平成23・4・12労判1026号27頁
)で示された6つの判断要素(命令要旨Ⅰ①~⑥)に従い、実態を重視して労働者性の判断を行っている。¶012
具体的には、配達パートナーが飲食物を注文者に配達する割合が、注文全体のうち99%を占めていること等から、本件事業は配達パートナーの労務提供なしには機能しないとして、事業組織への組入れ(①)を肯定した。また、プラットフォームの仕組みはウーバーが一方的に決めていること、配送料について個別交渉できる仕様になっておらず、料金改定も一方的に行われていること等から、契約内容の一方的・定型的決定(②)を肯定した。さらに、配送料は、実態としてはY₂社が配達パートナーに支払っているといえること、業務量に基づいて算出される配送基本料と、繁忙手当等に類する性質のインセンティブ(追加報酬)で構成されていること等から、報酬の労務対価性(③)を肯定した。¶013
加えて、配達パートナーは、ウーバーから交付される「配達パートナーガイド」に基づいて業務を遂行しており、評価制度やアカウント停止措置により当該ガイドに従わざるを得ない状況に置かれていることから、指揮監督下の労務提供(⑤)も肯定した。他方で、顕著な事業者性(⑥)は認められないとした。その結果、配達パートナーは、労組法上の労働者に該当すると結論づけた。なお、アプリをオンラインとするか否かが自由であること等から、業務の依頼に応ずべき関係(④)にあったとまではいえないとされたが、この点は補充的判断要素と解されていることから、結論に影響を及ぼさなかったと考えられる。¶014
このように、本命令は、労組法の趣旨および性格を踏まえ、従前からの一般的な判断方法に従い、実態を重視してオーソドックスな判断をしており、適切な判断といえる。¶015
3 Y₁社の労組法上の使用者性
前述のとおり、配達パートナーは、Y₁社と直接の契約関係にない。しかし、本命令は、命令要旨Ⅱのとおり、Y₁社が実質的に配達パートナーへの対応を行っていることを指摘して、Y₁社の使用者性を肯定した。¶016
この点も、労組法上の使用者性に関する一般的な判断方法(朝日放送事件・最判平成7・2・28民集49巻2号559頁など)に従って、実態を踏まえた判断がなされており、妥当である。¶017
4 おわりに
デジタル機器やインターネットの発達に伴い、現在、プラットフォームワーカーが増加している。プラットフォームワーカーは、柔軟で独立した働き方であるなどと言われることがあるが、その実態をみると、本件配達パートナーのように、経済的に従属している者が多いと思われる。¶018
本命令は、このようなプラットフォームワーカーに、適切な労組法上の保護を与えることを認めるものであり、社会的な意義が大きい。本件については、会社側が中労委に再審査申立てを行ったが、中労委でも本命令のように実態に沿った判断がなされることが期待される。¶019
[岡田俊宏]¶020
使用者側からのコメント
1 配達パートナーの労組法上の労働者性判断について
プラットフォームワーカーの労組法上の労働者性が認められた初めての例としては注目されるが、判断の内容自体は、さほど目新しいものではない。¶021
かねてより、労組法上の労働者性は、労基法・労契法上の労働者性とは異なる概念とされ、労使間の交渉促進という労組法の目的に照らし、労基法・労契法上の労働者ではない者をいかに保護対象に取り込むかといった観点も含めて議論されてきた。これに関し、フランチャイズ契約の加盟者たるコンビニオーナーの労組法上の労働者性が争点となった事案で、中労委は、労組法の適用を受ける労働者の範囲について、「労働契約法や労働基準法上の労働契約によって労務を供給する者のみならず、労働契約に類する契約によって労務を供給して収入を得る者で、労働契約下にある者と同様に使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含む、と解するのが相当」とした上で、そのような労務供給関係にある者の労組法上の労働者性は、①事業組織への組入れ、②契約の全部または重要部分の一方的・定型的決定、③報酬の労務供給対価性、を判断要素とし、さらに①では、業務依頼に対する諾否の自由、広い意味での指揮監督下での業務従事といえるか、および、専属性の有無をも補充的な考慮要素とすること、他方、事業者性が顕著である場合は労働者性は否定される、との判断枠組みを示していた(セブン-イレブン・ジャパン事件・中労委命令平成31・2・6平成26年(不再)第21号、結論として労組法上の労働者性を否定。同命令の取消訴訟における東京地判令和4・6・6労判1271号5頁
も当該結論支持)。¶022
本件も、同様の判断枠組みを用いて労組法上の労働者性が判断されている。特に本件は、配達パートナーとプラットフォーム提供事業者(Y₁社ら)との間の契約はプラットフォームの利用契約であり、形式的には、配達パートナーはプラットフォーム提供事業者の利用者(顧客)と位置づけられるため、Y₁社らとの間において労務供給関係にあるといえるかが、労組法上の労働者性判断にあたり最初の関門となったのではないかと思われる。もっとも、命令において認定された事実関係によれば、Y₁社らは、配達に関し詳細なルールを設定し、配達の遂行状況や配達依頼の諾否状況を(事実上)評価するなどしていること、上述のコンビニオーナーとは異なり、配達パートナーは事業者性に乏しく代替可能性もないこと等に照らせば、その実態としては、Y₁社らに対する労務供給であるとの評価は不当とはいえず、また、そのようなY₁社らによるコントロールの強さに鑑みれば、本件では、労組法上の労働者性を肯定するとの結論はありうるところである。もっとも、プラットフォーム提供事業者はあくまで個人間の取引の「場」を提供するものであり、Y₁社らによるコントロールはこのようなサービスを適正に運営するために行われている面もあることからすれば、Y₁社らによるコントロールの評価は、そのような側面をも踏まえてなされるべきであり、そうすると、Y₁社らに対する労務提供と同視できるかは疑問が残るところもあり、このほか、業務依頼に対する諾否の自由、専属性、時間的・場所的拘束性などについては異なる評価もありうる。いずれにせよ、本件の今後の動向を注視する必要があろう。¶023
2 Y₁社の労組法上の使用者性判断について
Y₁社の労組法上の使用者性判断(上記命令要旨Ⅱ)に関して、本件命令では、基本的には従来の使用者性判断の枠組み(朝日放送事件・前掲最判平成7・2・28)に沿ってなされているようである。ただ、そもそもY₁社との関係をも含めて労働者性を肯定しつつ(上記命令要旨Ⅰ)、さらに別途独立してY₁社の使用者性を論ずる必要があるのかには疑問が残る。従来の使用者性判断の枠組みは、あくまで労働契約上の雇用主(本来的な使用者)が存在することを前提にそれ以外の者も使用者となりうるのかを検討するものであるため、本件のように労働契約上の雇用主(本来的な使用者)が存在しない場合に同様の判断枠組みが妥当するのか、については議論の余地があると思われる。¶024
3 本命令の評価
本件は、上述のとおり、プラットフォーム提供事業者(Y₁社ら)側が、実態として、利用者同士のマッチングにとどまらず、利用にあたり詳細なルールを設定し、プラットフォームワーカーに対して強いコントロールを及ぼしていた点に特徴がある。そのような実態を踏まえての労働者性判断であることから、本件命令が今後広くプラットフォームワーカー一般について労組法上の労働者性を認める方向性を示したとの評価は妥当でない。¶025
[町田悠生子]¶026