Ⅰ.はじめに
近時、選挙を通じた代議制民主主義について、党派的分断による機能不全や、深刻な不信が世界的に生じていると言われる。その是正を目指す立場からは、非制度的民主主義や独立機関の意義が強調され1)、また、直接民主主義的制度、更には選挙を基礎としない代議制民主主義制度(抽選制)の導入などが提唱されている2)。こうした見解に傾聴すべき点は多いが、それは選挙型の代議制民主主義を代替すると言うより、むしろその補完を目指すもののようである。そうだとすれば、選挙以外の経路を発展させていくと同時に、選挙型の代議制民主主義の構成要素、例えば選挙に関する法(以下、「選挙法」3)という)の検証や見直しを進めていくことも必要であろう4)。選挙法は、国民の政治参加、政党間・候補者間の競争、国政への民意の反映のあり方等に大きな影響を与え、デモクラシーの実質を左右する要素を含むからである(1994年の「政治改革」による中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への移行は、選挙法の変更としては最も劇的なものであったが、それ以外の選挙法についても、デモクラシーのあり方に大小様々な影響を及ぼす)。ここでは、現代的な社会変容を踏まえて選挙制度、選挙運動規制を再検討することや、政治部門でのジェンダー格差の解消、少子高齢化や都市一極集中などの人口動態を踏まえた制度設計、デジタル・デモクラシーの実現といった、より現代的な課題に即して検討を深化させることが求められるかもしれない。より良い選挙法の実現のためには法改正が必要であるが、これについて憲法学は、日本国憲法を踏まえた現行選挙法の検証、改革案の吟味、また具体的な制度構想の提示等を通じて一定の貢献をしていくことになろう。¶001