Ⅰ.はじめに

洪 恵子1)

本稿は2018年に国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination,以下「CERD」)に提起された国家間通報の事案の1つを取り上げ、人権を保障するための多数国間条約の特殊性、つまり対世的(erga omnes)義務を負わせているという特徴が多数国間条約の適用に与えた影響を検討する。その事案とはパレスチナ国(State of Palestine、以下「パレスチナ」)が人種差別撤廃条約11条1項に基づいてイスラエルに関してCERDに注意喚起を行い、条約に基づく国家間通報の手続をとることを求めたものである。パレスチナとの間には条約関係はないとするイスラエルの申立てを退け、最終的にCERDはこの通報に関して管轄権があるという決定を行った。その際にCERDが依拠したのが対世的義務を定めているという条約の特殊性であった2)