Ⅰ.はじめに

世界貿易機関(WTO)での多角的貿易交渉が停滞する中、2国間や地域単位での自由貿易協定(FTA)1)が増え続けている2)。限られた国の間での野心的な交渉が可能なFTAは、広く貿易に影響し得る様々な事項を規律範囲に含む点に特徴があり、近年では、労働章や環境章を置いて、一定の労働・環境基準の採用やその執行を義務づけるものも増えている3)。低水準の労働・環境規制は貿易当事国間での競争条件を歪め(social/environmental dumping)、貿易に影響するため、FTAの関心事となるのである。特に貿易と労働の問題は、生産工程の細分化と国際的分業化に伴い、先進国の労働者が保護主義への傾斜を強める今日、自由貿易体制の「最大の試練」となっているともいわれる4)