Ⅰ.はじめに

1.2016年米国大統領選挙に対するロシアの情報工作

ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンが争った2016年の米国大統領選挙では、ロシアが、インターネットを通じた主に2つの情報工作によって選挙に影響を与えようとしたとされる。第1に、ロシアのプーチン大統領とつながりのある実業家により資金を供与されたロシア企業が、トランプを支援しヒラリーの評判を落とすためのソーシャル・メディア活動を行った。具体的には、米国内の個人や草の根団体を装ってFacebookやTwitterにアカウントを開設し、社会分断的な政治・社会問題に関するコンテンツを発信したり、ボットと呼ばれる自動化されたアカウントのネットワークを通じてそれを拡散させたりした1)。第2に、ロシア軍情報部がハッキングによってヒラリー陣営のコンピューターからファイルや電子メールを盗み出し、内部リークを装ったウェブサイトやウィキリークスなどを通じて、インターネット上に公開した2)。ロシアは、インターネットを通じた情報工作を通じて大統領選挙に関する米国の世論に影響を与えようとしたといえるだろう3)