事実
本件は、大畠瀬戸・大島大橋に衝突する事故(以下、「本件事故」という)を起こした船舶(以下、「本件船舶」という)の所有者X(原審申立人・抗告審相手方)が、本件事故によって生じた物の損害に関する債権について、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(以下、「法」という)に基づき、責任制限手続開始の申立てをした事案である。¶001
本件船舶には、A船長及びB航海士等が乗務し、平成30年10月21日、大韓民国温山港から広島県江田島市に向け出港した。A船長は、同月22日午前0時頃、大島大橋の灯火を認めた際、大島大橋の下を安全に通過できないおそれがあることを認識し、B航海士に対し、大島大橋の高さを調査するよう指示したが、B航海士は調査することができなかった。A船長は、上記調査が完了するまで、本件船舶を減速させることを考えたが、西方に向かう潮流により圧流されることが懸念されたので停止、迂回させるなどの措置をとることなく半速力前進で進行させ、同日午前0時27分頃本件事故が発生した。本件事故により、大島大橋に損傷が生じ、橋桁の下に設置されていた送水管が破断し、山口県周防大島町のほぼ全域において約40日間の断水が生じたほか、電力ケーブル、通信ケーブルの破断等を生じた。¶002