Ⅰ. 本稿の目的――「第1の柱」の概要とその歴史的意義
2021年10月8日、OECD/G20「BEPS包摂的枠組み」(以下「包摂的枠組み」という)は、国際課税ルールの見直しについて2つの柱からなる解決案に大枠合意した(以下「本国際課税合意」という)1)。本国際課税合意は、同月末のG20首脳会議(ローマ)において「より安定的で公正な国際課税制度を確立する歴史的な成果〔a historic achievement〕である」との位置付けを与えられた2)。そのうちの第1の柱(Pillar 1)は、いわゆる「デジタル課税」として、巨大な多国籍企業グループ(世界全体で約100社)の利益の一部を、物理的拠点の有無にかかわらず、その企業の製品・サービスの消費者が所在する市場国に配分し、その利益に対する課税権を当該市場国に与えるものである。ある企業が物理的拠点(支店等)を有しない国において課税を受けるという点において1920年代からの国際課税のルールを変更するものであり、包摂的枠組みは、「国際社会がデジタル時代の画期的な租税条約を締結〔International community strikes a ground-breaking tax deal for the digital age〕」と述べている3)。第1の柱のうち主となる利益A(その内容は後述する)については、2022年に多国間条約策定・署名、各国国内法改正、2023年の実施が予定されており、我が国では1年後の令和5(2023)年度税制改正での対応が想定される。但し、現実的な日程であるかについては疑問の声もある4)。¶001