はじめに
令和7年度の判例を概観するにあたり、判時2602号から2630号まで、および、判タ1525号から1536号までを主に参照した。必要に応じて裁判所ウェブサイト等に掲載されている判例も掲載した。もっとも、前年度までに紹介された裁判例は原則として割愛した。¶001
Ⅰ 判決手続関係
1 裁判所
⑴ 法律上の争訟
東京地判令和6・10・18(判時2624号86頁)は、棋士Xが、鼻を露出した態様でのマスク着用を行い、対局に臨んでいたところ、公益社団法人Yはこれが臨時対局規定に違反するとして、Xを3度にわたり反則負けとする処分をし、更には3か月の対局停止とする懲戒処分を行ったが、Xは本件懲戒処分が違法であると主張して、Yに対し、主位的に不法行為による損害賠償請求(主位的請求)を、予備的に本件懲戒処分が無効であるとして「Xが降級点を持たずに順位戦のクラスである×級○組に在籍する地位にあることの確認」(予備的請求)を求める事案である。本判決は、本件各反則負処分および本件懲戒処分は、Xの生活基盤である報償金等に具体的な影響を生じさせ、一般市民法秩序に関わるものであり、また、上記各処分が違法・無効であるといえるかどうかという本件の争点については、上記各処分の前提となる本件規定やYの倫理懲戒規程の解釈・適用において、Yに裁量の逸脱が認められるかどうかにより判断することができるから、司法判断になじむものであるため、Xの主位的請求に係る訴えは、裁判所の司法審査の対象となるとしたが、本件懲戒処分に違法性は認められないとし、Xの請求を棄却した。これに対して、予備的請求の当否を判断するためには、上記各処分の当否についてだけでなく、×級○組の他の棋士の対局成績との対比におけるXの対局成績を評価する必要があり、更にその前提として、上記各処分の対象となった対局においてXが勝利すると評価されるべきであったかどうかについても判断する必要があるが、これらの評価が司法判断の対象とならないことは明らかであるから、予備的請求についての訴えは、「法律上の争訟」(裁3条1項)とは認められないとして訴えを却下した。¶002