本欄では、令和6年11月1日から令和7年10月31日までに言い渡された商事法に関する裁判例のうち、重要と思われるものを紹介する(同期間以前に言い渡された下級審の判決・決定に触れることもある)。また、同期間以前に言い渡されたものではあるが、補遺として今年度の重要判例解説に採録した裁判例も紹介する。¶001
Ⅰ 会社法
1 株式・新株予約権
京都地判令和7・1・23(判タ1540号180頁、商法1)は、甲社とその子会社(甲社ら)が、①甲社らの相談役であり甲社の株主でもあるAに対して甲社らが支払っていた相談役報酬と、②Aに対して甲社が支払っていた管理人費用(Aの私邸と同一敷地内にある甲社施設に配置された管理人の業務費用)について、これらの支払がAの株主の権利の行使に関する財産上の利益の供与(利益供与)に当たると主張して、会社法120条3項前段の返還請求権に基づく支払を求めた事案である。裁判所は、次の理由から、請求を認容した。すなわち、昭和60年に、Aと甲社の当時の代表取締役の間で、Aが経営に口を出さない代わりに甲社およびその子会社の相談役報酬名目でAに対して金銭を支払う旨の合意(本件合意)が成立したことが認められ、①の支払はAの株主権の不行使の見返りとしてなされたものであるといえること、Aはほとんど職務を行っていなかったにもかかわらず高額な報酬を受領しており、甲社らが受けた利益はAに供与した財産上の利益に比して著しく少ないといえるため、会社法120条2項後段の推定がされることから、①の支払は利益供与に当たる。また、②の甲社施設は長らく甲社によって使用されておらず、同施設に24時間体制で配置されていた管理人は、実質的にはAの日常生活の世話をするために配置されており、管理人費用はAのために支出されていたと認められること、同費用の支払は本件合意に基づきされたと認められることから、②の支払は利益供与に当たる。さらに、①・②の支払とも本件合意に基づいてされたものであるから、Aは悪意の受益者に当たる。¶002