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Ⅰ 経済安全保障の時代におけるテクノロジーの重要性

米中対立、ウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ紛争など、世界情勢は、複雑さを増しています。各国のパワーバランスが変化し、地政学的な対立が激化する中で、日本のみならず、各国が、どのように自国のポジションを確保するのかを問われる時代になりました。¶001

他方で、現代は、急速に変化するテクノロジーがイノベーションや経済力(経済的な競争力)に直結する時代でもあります。例えば、スマートフォンや新型コロナウイルス対策ワクチンからAIまで、現代のテクノロジーは、我々の生活に大きな影響を及ぼすとともに、各国の経済力の基礎となっています。¶002

こうした状況を背景として、日本政府が令和4(2022)年に発表した「国家安全保障戦略」(内閣官房「国家安全保障戦略(2022)パンフレット 日本語版」。以下、「同戦略」といいます)は、経済力・技術力は、外交力・防衛力・情報力と並ぶ国力の一部であるとし、その重要性を強調しています(同戦略Ⅰ参照)。そして、同戦略は、経済の自律性、優位性、不可欠性の確保が日本の安全保障上の目標であると位置付け、平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済上の措置を講じて確保することが「経済安全保障」であると定義しています(同戦略Ⅵ 2(5)・参照)。¶003

すなわち、テクノロジーの進歩が著しい状況の下で、地政学リスクが増大している現代世界においては、日本の国益確保のための経済安全保障戦略として、経済的・技術的な自律性や優位性の確保が重要です。そして、日本が経済力・技術力を確保し続けるためには、政府のみならず、民間企業にも、経済力や技術力に関する情報を収集し、リスクや脅威を分析する経済インテリジェンス・技術インテリジェンスの考え方が求められるといえるでしょう1)¶004

知的財産権は、各国が有するテクノロジーの強さや大きさを示す1つの指標です。法実務の交差点【知財編】の最終回では、経済安全保障の時代におけるテクノロジーの重要性と企業に求められる対応について考えます。¶005

Ⅱ 特許出願非公開制度

Q₁

経済安全保障推進法には特許出願非公開制度が定められています。自社が軍事技術そのものの開発に関与していなければ、この制度は無関係と理解していますが、留意点があれば、教えてください。

¶006

A₁

特許出願非公開制度の対象には、日本の安全保障の在り方に多大な影響を与えるおそれのある先端技術分野が含まれており、必ずしも軍事技術だけがその対象ではありません。最近では、軍民両用(デュアル・ユース:Dual Use)の製品が増えており、例えば、宇宙関連産業のような将来技術が関係する分野については、スタートアップ(新興企業)の特許出願であっても、特許出願非公開制度の対象になり得ます。

特許出願非公開制度に基づく保全指定がなされるかどうかの審査(保全審査)は、特許出願人からの申出がなくても、特許庁の第一次審査を経て、内閣府の審査部門の判断で開始されます(法66条1項)。もっとも、運用上、最終的には、特許出願人の意見を踏まえて保全指定がなされるとのことです。

保全指定がなされると、特許法上の手続が留保され、発明の実施の許可制(法73条)等の効果が生じます。また、保全審査の対象となる発明については、外国出願が禁止され(法78条)、違反には罰則があります(法94条)。保全指定や外国出願の禁止は、企業の知財戦略(特に海外への特許出願を含む知財ポートフォリオの構築)に影響する可能性がありますので、十分な留意が必要です。

¶007