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Ⅰ はじめに

生成AIの登場によって、AIに文章や画像を入力して加工したり、AIを用いて文章や画像を生成したりすることが誰でも気軽にできるようになりました。同時に、第三者の著作物である文章や画像をAIに入力しても良いのか、AIによって生成された文章や画像が第三者の著作物の創作的表現に類似している場合をどのように考えるのか等の議論が世界中でなされています。¶001

日本の著作権法は、生成AIの登場に先立つ平成30(2018)年の改正において、デジタル技術・情報通信技術等の進展に対応するため、いわゆる「柔軟な権利制限規定」(著作30条の4、47条の4及び47条の5)を導入しました。¶002

そして、この「柔軟な権利制限規定」の1つである著作権法30条の4によって、AIを用いた機械的な情報解析の場面においては、一定の要件の下で、著作権者の許諾を得ることなく、著作物を利用することができるようになりました(本連載第16回参照)。このため、日本は「機械学習パラダイス」1)であるともいわれています。¶003

それでは、日本では、AIを用いれば、第三者の著作物を無制限に利用できるのでしょうか。筆者らの経験によれば、日本では、実務上、AIによって生成された文章や画像が第三者の著作物の創作的表現に類似する可能性を危惧して、AIの導入が十分に進んでいない側面もあるように思われます。こうした状況を打破するためにも、第三者の著作物を利用できる場面の整理は極めて重要といえます。¶004

「柔軟な権利制限規定」は、著作権者の利益の保護とバランスを取りながら、AIをはじめとするデジタル技術・情報通信技術等による著作物の利用促進を図る規定です。では、「柔軟な権利制限規定」は、AIによって生成された文章や画像が第三者に提供される場面について、著作権者の利益をどのように保護しているのでしょうか。今回は、著作権法47条の5について考えてみます。¶005

Ⅱ 著作権法47条の5

1 著作権法47条の5の立法趣旨等

著作権法47条の5は、著作権法30条の4と同様に、平成30(2018)年の著作権法改正で導入された「柔軟な権利制限規定」の1つです。著作権法47条の5は、著作物の「本来的利用には該当せず、権利者に及び得る不利益が軽微なものにとどまる行為類型」(平成30年著作権法改正にいう「第2層」)であり(本連載第16回Ⅱ参照)、「相当程度柔軟性のある規定」であると説明されています(文化庁「著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)」〔以下、「平成30年改正解説」といいます〕1頁~14頁参照)。¶006