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Ⅰ 宇宙に関するルール(宇宙法)の現状

近時、宇宙ビジネスの進展によって、宇宙空間は身近なものになってきました。宇宙は、政府や国家機関がロケットや人工衛星を打ち上げて科学探査やインフラ整備を行う場であった時代から、民間事業者が多様なビジネスを展開する場へと変貌しつつあります。¶001

宇宙活動に関するルール(宇宙法)は、地上での活動を前提として我々が構築・適用してきたルールがベースになるはずですが、国家間の微妙なパワーバランスなどの結果として、ルールの決まっていない分野や事項が少なくありません。例えば、宇宙の定義(どこまでが空で、どこからが宇宙であるか)についても、宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)などに規定はなく、国際法上の合意はできていません1)¶002

これに加えて、近時の宇宙活動の多様化を背景として、宇宙空間の特殊な位置づけを踏まえた既存のルールの見直しが議論されたり、宇宙空間の位置づけそのものにも疑義が呈されたりするなど、宇宙に関するルール(宇宙法)は変化のときを迎えているといえます。日本でも、現在、宇宙政策委員会が宇宙活動法の見直しを進めています(例えば、内閣府宇宙政策委員会第117回会合議事次第〔令和7年(2025年)3月25日〕参照)。国際的にも、宇宙空間は国家機関が協調して宇宙活動を行うべき空間とされた時代から、各国の民間事業者が宇宙空間において宇宙開発を競い合い、かつ、そうした宇宙開発の成果が安全保障を含む国益を左右する時代へ変容しつつあるとの認識が生まれてきています。そのような状況認識に基づき、米国が主導するアルテミス合意に代表される新たな国家間のルール策定を模索する動きや、米国やEUをはじめ、各法域において宇宙活動に関する国内法等の策定・改定を進める動きがみられます。¶003

そして、今日の宇宙ビジネスの急速な進展からするならば、宇宙に関連する知的財産法の問題も、早晩、現実化する可能性が大いにあるといえるでしょう。¶004

Ⅱ 宇宙空間と特許権侵害

1 特許権侵害行為の一部が宇宙空間でなされた場合

Q1

日本のX社が日本(のみ)で特許を取得した発明が、地球周回軌道に投入された人工衛星を経由して提供されるサービスにおいてX社の許諾なく実施され、日本のY社が当該サービスを日本の顧客向けに提供しています。X社は、Y社に対して、人工衛星による地上向けサービスの提供差止や損害賠償を請求できるでしょうか。なお、日本法に準拠して、日本の裁判所に訴えが提起された場合を考えます。

¶005