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Ⅰ はじめに

AIの進化は止まるところを知らず、2022年11月30日のChat GPTの公開以降、むしろスピードアップしています。専門家の間では、2027年頃までには、自律的にAIを生成・進化させるAIが登場するとまでいわれています。AIがAIを生成して進化するようになれば、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)がやってくるといえるかもしれません1)¶001

筆者らは、生成AIという日本語の呼称ができる以前からGenerative AIの登場に注目し2)、AI関連サービスの提供事業者や利用者からAIに関する法律相談を多数受けてきました。同時に、筆者らは、AIをリアルに知る目的で、AI関連サービスの開発にも関与し、AIの驚異的な進化スピードを自ら経験しています3)¶002

AI関連サービスの検討にあたって常に問題となるのは、著作権との関係です。生成AIを利用すれば、文章や画像を自由に生成することができる反面、その手法や生成物次第では、第三者の有する著作権との関係が問題になります。¶003

AIと著作権については文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6〔2024〕年3月15日)(以下、「AIと著作権に関する考え方」といいます)をはじめとして多くの解説や論考が発表されていますが、AI関連サービスを考える場合の限界は引き続き見えにくいのが実際のところではないかと思います。法制度は、ある程度の将来予測を視野に入れた立法事実を前提として策定されますが、急速に進化するテクノロジーに対応する最適な法制度の実現は至難の業であり、著作権法も例外ではありません。¶004

このような背景の中、ビジネスにおけるリスクが強調されがちな日本では、第三者の有する著作権との関係を懸念してか、米国や中国に比べてAIの活用が遅れているように思われます。「知的財産法×AI」をテーマとする本稿では、日本におけるAI活用が少しでも促進されるよう、今回と次回に分けて著作権法の文言や裁判例を改めて検討し、生成AIと著作権について、実務上、できる限り具体的な整理を試みたいと思います。¶005

Ⅱ「柔軟な権利制限規定」の導入

第三者が著作権を有する著作物を適法に利用するためには、著作権者から著作物の利用の許諾(著作63条1項)を得るか、又は利用行為に著作権法の定める権利制限規定(同30条以下)が適用されることが必要です。もっとも、著作権が登録その他の手続を必要とせずに自動的に付与される(無方式主義。同17条2項)ことと相俟って、全ての著作物の利用に著作権者の許諾を得ることは現実的に不可能であることが多く、実務上は、権利制限規定の適用の有無が重要な問題となります。¶006