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刑法を教えていると、「通説は何ですか」と質問されたり「通説を教えてください」と要望されたりして困惑することがある。困惑の理由が、通説を教えられた学生がそれを丸暗記して満足し、考えようとしなくなるのではないかという懸念であるときは、まだよい。回答を工夫すれば済むからである。本当に困るのは、通説がわからないときである。「わからない」と答えるのが適切な場面もあるが、それでは許されない場面があるのも確かである。学生が許してくれないからではない。法律学も学問であり、学問とは、通説に対する懐疑から出発してこれを突き詰め、新しい何かを付け加えることにより、通説を乗り越えて発展するものである。また、法律学の通説は、学問の世界にとどまらず、判例の形成過程や立法の過程において重要な情報として参照されることがある。このような学問的、実践的な意義からしても、何が通説か、そもそも通説とは何かという問いに向き合うことは不可欠である。本書は、刑法学界をリードする中堅、若手の研究者12名がこの問いに真剣に向き合い、文献調査の方法により、刑法の通説の同定、その問題点の解明、あるべき方向性の提示を試みるとともに、元裁判官2名が刑法の通説と判例を分析する異色の学術書である。¶001