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書評冒頭、残念ながら立法・行政実務・研究において、極めて不十分な分野が日本行政法にあることに言及しなければならない。その克服のために本書は刊行されている。¶001

本書が扱う3つの行政上の強制執行の手段(代執行、直接強制、執行罰)は、行政実務上「機能不全」が指摘され、かつて40年以上の長きにわたり、学問上ほとんど研究の進まない分野であった。「本書の問題意識」(序章)が示すように、行政上の義務履行確保の基本となる行政代執行法(昭和23年法律第43号)は所管省庁さえ明確でなく、実質的法改正がなされずに現在に至った。行政代執行法は物に関する代替的作為義務の履行に適用される一般法であるが、物および人の身体に関する非代替的作為義務の履行(直接強制、執行罰)については一般法がない。強制の手立てを欠く立法の不備の下で、行政は過度に行政指導に依存した運営となる。行政実務の態度は強制について「ウルトラ消極主義」と評され、立法の態度は「立法上の行政強制消極主義」と評される。そのような状況では、行政法研究者たちにとって研究の切り口を見出すことも非常に難しかったのである。¶002