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Ⅰ はじめに

日本の消費者法制は、消費者基本法の制定(2004年)と消費者庁の創設(2009年)によって新たな時代を迎えた。しかし、その後も多数の消費者に重大な被害をもたらす事案は後を絶たず、むしろ質と量の両面で深刻さを増している感すらある。さらに、押し寄せる社会の超高齢化やデジタル化の波は、そうした被害の一層の悪化を懸念させる。おそらく、こうした消費者被害をめぐる現状の改善は、既存の消費者法制の部分的な手直しだけでは十分に図れない。そうした認識から検討が進められているのが、消費者法制の抜本的な見直しを企図した「消費者法制度のパラダイムシフト」である1)。そこでは、①消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方、②デジタル化による技術の進展が消費者の関わる取引環境に与える影響についての基本的な考え方とともに、③ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方が模索されている2)。では、こうしたパラダイムシフトの中で、刑事法にはいかなる役割が求められているのであろうか。¶001