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Ⅰ はじめに

消費者法の課題を多角的に考察するという本特集において、わたしが論じるよう提示された観点は「民法」と「行動経済学」という水と油のような観点である。水と油だと感じる理由は、少なくとも会社法との比較で、民法を論じる上では行動経済学を含めた経済学の利用は盛んだとは言いがたいからである。¶001

こうした水と油のような状態は、消費者契約法にも影響しているように思われる。つまり、一方で、消費者契約法は民法の付属法の一種として扱われており、この影響が議論されている。他方で、消費者の実効的保護を図るために、経済学と心理学、ひいては心理学の経済学的応用分野である行動経済学が参考にされる機会が増えている。このように、消費者契約法という分野では、民法と行動経済学が交錯して参照されている。しかし、民法・行動経済学と、消費者法を統一的に理解する観点は、上記の水と油のような状況を反映して、明確とは言いがたい。例えば、で見るように消費者法では脆弱性という観念に注目が集まっており、これは行動経済学で説明がつきやすいものも含まれているが、そうでないものも含まれている。また、行動経済学は、経済学的な効率性のみならず意思決定の自律性という民法で伝統的に重視されてきた原理・評価の内実を判断する上で重要なものであるが、これが契約の効力の肯定・否定とどのように結びつくべきか、あまり明確ではない。¶002