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Ⅰ はじめに──部落差別の新たな局面

部落差別は根深く、情報化の進展により、新たな局面を迎えている。部落差別とは、「我が国の封建社会で形成された身分差別により、経済的、社会的、文化的に不合理な扱いを受け、一定の地域に居住することが余儀なくされたことに起因して、本件地域〔かつて被差別部落があったとされる地域〕の出身であることなどを理由に結婚や就職を含む様々な日常生活の場面において不利益な扱いを受けることである」(東京高判令和5・6・28判タ1523号143頁)。新たな局面とは、インターネット上に、特定の地域を同和地区と指摘する情報(以下、法務省が用いる「識別情報」とする)が公表され、被差別部落出身者の特定を容易にして、「差別を行う手段を提供する」というものである。かつて昭和50年に、全国の同和地区の所在地等を掲載した「部落地名総監」が、企業や興信所等で就職や結婚の際の身元調査等に使用されていたことが発覚して社会問題となり、法務省の人権擁護機関は、平成元年までの間、人権侵犯事件として調査を行い、発行者、購入者等から、任意に合計663冊の提出を受けて回収するなどしていた(商事法務研究会「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ」〔令和4年5月〕83頁~84頁、以下「取りまとめ」とする)。「部落地名総監」は高額で秘密裏に販売されていたのに対し、今回は、誰もがアクセスし得るインターネット上に識別情報が公表され、それにより被差別部落出身者の特定をより容易にするだけでなく、差別意識を助長し新たに植え付けるなど、事態はより深刻になっているといえるのである。¶001