Ⅰ はじめに
法務省は、民事訴訟手続IT化の立法に引き続き、2022年から民事判決情報のデータベース化の検討を開始し、2024年7月に「民事判決情報データベース化検討会報告書」(以下、単に「報告書」という)を公表した。この報告書には、民事訴訟手続における裁判所の判決をすべて提供することを基本方針として、その具体的な方法が示されている。¶001
これまで日本の法情報の提供は、法令について行政管理庁のデータベースを引き継いだe-Govのサイトが先行していた。そこでは法律から政省令・規則に至るまで網羅的にインターネットによる公開を行い、しかもXMLを用いてAPIにも対応するデータ提供を無償で行ってきた。このオープンデータのお手本のような法令情報提供に対して、裁判例については、裁判所による紙媒体の判例集と民間出版社の判例雑誌の時代から、提供範囲が先例的価値のある裁判例、あるいは参照価値のある裁判例に限られていた。その後、インターネット時代になってオンラインデータベースの提供が始まっても、その基本的な方針に大きな変化はなかった。もちろん裁判の公開原則(憲82条)の下で、民事訴訟については判決書を含む訴訟記録は原則としてすべて一般公開されており(民訴91条)、誰でも裁判所に赴いて閲覧を請求することができた。しかし、出版物やデータベースに登載される裁判例の割合は極めてわずかであった(報告書7頁では、令和4年の民事の終局判決が簡裁から最高裁まで22万5000件余りであるのに対して、民間データベースの登載裁判例は年間1万件から2万件程度とされている)。¶002