FONT SIZE
S
M
L

Ⅰ はじめに──議論の背景

令和6年金融商品取引法改正の検討過程で取り上げられた実質株主の透明性の確保は、本特集で解説されている公開買付制度や大量保有報告制度と異なり、令和6年改正の対象範囲に含まれなかった事項である。¶001

令和6年金融商品取引法改正の検討過程において実質株主の透明性の確保が扱われた背景には、大量保有報告制度の対象となる場面を除き、株式について議決権指図権限や投資権限を有する者(これらが「実質株主」と呼ばれる)を発行会社や他の株主が把握するための制度整備がなされていないとする問題意識がある1)。金融庁の金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」による検討開始段階では、「企業と株主・投資家の対話や相互の信頼関係の醸成を促進する観点から、実質株主とその持株数について、企業や他の株主が効率的に把握できるよう、諸外国の制度も参考に実務的な検討がなされるべきとの指摘がある」とされ、「企業や他の株主が実質株主を効率的に把握するための方策の要否及びその内容について、どう考えるか」が検討課題とされていた2)。また、大量保有報告制度の検討のなかで3)扱われた実質株主の透明性の確保は、会社法制の見直しの観点からも並行して議論されている点も注目される4)¶002