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Ⅰ 適切な「営業秘密」保護の重要性

情報は、漏えいして拡散すると回収が困難であり、情報そのものの経済的価値が失われるだけでなく、企業の競争力にも影響が及びます。実際に情報が漏えいされると、企業が侵害者による不正競争の証拠を収集することは困難です1)¶001

そこで、特に重要性の高い情報については、「営業秘密」(不正競争防止法〔以下「不競法」といいます〕2条6項)として適切に管理し、漏えいの際には、できる限り迅速に刑事的・民事的対応を取ることができる体制を整備することが望ましいといえます。「営業秘密」とは、不競法上、一定の要件を備えた技術上又は営業上の情報をいいます。「営業秘密」としての秘匿は、特許出願と並んで、企業が保有する技術上の情報を保護する重要な方法といえます2)¶002

Ⅱ 「営業秘密」を保護する具体的な方法

Q1

退職者に秘密情報を持ち出させないために、企業は、どのような対策ができるでしょうか。

¶003

A1

企業としては、物理的なデバイス管理やアクセス制限等によって「営業秘密」を管理するとともに、従業員等と合意することによって「営業秘密」を管理する必要があります。

¶004

1 「営業秘密」漏えいの場面とその対策

企業の「営業秘密」が漏えいする場面として、典型的には、退職者による情報の持ち出しのほか、現職従業員等による人為的ミス、取引先や共同研究者を経由した漏えい等があります。最近では、インターネットを経由した標的型攻撃や従業員等に扮した産業スパイ等の侵入による事例も見受けられます。¶005

「営業秘密」は、不競法によって保護されていますが、適用には要件があり、不競法による保護のハードルとなることがあります(後述)。そこで、実務上は、就業規則等の定めや従業員等との個別の合意(契約)によって従業員等に秘密保持義務を課し、「営業秘密」の不適切な使用や漏えいを禁止する対策が取られています。¶006

2 不競法による「営業秘密」の保護

(1) 「営業秘密」の要件

技術上又は営業上の情報が「営業秘密」(不競法2条6項)として保護されるためには、不競法上、3つの要件を満たす必要があります。¶007

「営業秘密」(不競法2条6項)の要件
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このうち、①秘密管理性は、企業が秘密として管理しようとする情報の範囲を明確化することによって、従業員等の予見可能性を確保する等のために設けられた要件とされています(経済産業省「営業秘密管理指針」3)〔最終改訂2019年1月〕4頁以下)。¶008

もっとも、従前は、秘密管理性の要件が厳しく判断される結果として、「営業秘密」として不競法による保護を受けられない例が少なからずありました。そこで、近時は、企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該情報にアクセスした者が秘密であると認識できる場合(認識可能性が確保される場合)には情報にアクセスできる者が制限されていないことを理由として秘密管理性が否定されることはない、とされています。そして、情報へのアクセス制限は秘密として情報を管理する措置の一例ではありますが、「秘密としての表示」や「秘密保持契約等の契約上の措置」も秘密として情報を管理する措置に含まれると広く考えることが適当である、とされています(営業秘密管理指針6頁注6参照)。この考え方を前提に、裁判例においても、秘密管理性の要件が広く解されるようになっています4)¶009