Ⅰ 一般雇用原則と職務発明・職務著作
1 一般雇用原則
労働法の一般的な原則によれば、①労働の成果物は、労働契約に基づいて、すべて使用者に帰属し、②その対価として労働者から使用者に対する賃金請求権が発生します(一般雇用原則)1)。すなわち、労働契約は、労働者と使用者の間で、労働者が労務を提供し、使用者がこれに対して賃金を支払う合意によって成立する(労契6条)ところ、労働者の生み出した知的財産に対して、賃金以外の金銭を支払うことを労働法は想定していません。¶001
2 職務発明
これに対して、特許法は、いわゆる職務発明について、一般雇用原則とは異なる定めを置いています。¶002
すなわち、会社や法人(以下「使用者等」といいます)の労働者や役員等(以下「従業者等」といいます)のなした発明のうち、「従業者等」の現在又は過去の職務に属し、かつ「使用者等」の業務範囲に属するものを職務発明といい、職務発明は、「従業者等」に原始的に帰属し、「使用者等」は通常実施権を有するとされています(特許35条1項)。¶003
もっとも、契約、勤務規則等においてあらかじめ「使用者等」に特許を受ける権利を取得させることを定めたときには、職務発明に係る特許を受ける権利は、当該「使用者等」に帰属するとされており(同35条3項)、実務上は、このような定めを置くことが一般的になっています。¶004
また、「従業者等」は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について「使用者等」に特許を受ける権利を取得させる等をした場合には、相当の金銭その他の経済上の利益(以下「相当の利益」といいます)を受ける権利を有するとされています(同35条4項)。¶005
つまり、職務発明については、①特許を受ける権利の帰属と②「従業者等」が相当の利益を受ける権利を有する点で、一般雇用原則が修正されています。¶006
3 職務著作
他方、著作権法は、いわゆる職務著作について、一般雇用原則に近い定めを置いています。¶007
すなわち、法人その他使用者(以下「法人等」といいます)の発意に基づき、当該法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であって、当該法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とされています(著作15条1項)2)。この場合、著作者人格権(同18条以下)を含むすべての権利が原始的に法人等に帰属します。¶008
また、著作権法は、特許法とは異なり、現実に著作行為をなした者に対する相当の利益の支払を定めていません。¶009