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本書は、著者が前著『会社法の基本問題』(2011年)刊行後の約10年間に公表した論稿を収めたものである。その諸論稿における著者の関心の対象は、コーポレート・ガバナンス、M&A、非公開会社法制など多岐にわたっている。そこで、本書評では、本書で複数の論稿にわたって扱われている著者の問題意識や主張を3点に絞って取り上げる。¶001

第1に、「上場会社の株主」(論文①)、「会社法改正によって日本の会社は変わらない」(論文②)、「コーポレート・ガバナンスの目的と手法」(論文③)、「日本のコーポレート・ガバナンスの特徴」(論文④)は、近年のコーポレート・ガバナンス改革に対する著者の懐疑的な見方を示すものである。論文①は、連結売上高約1200億円~1500億円より大規模な上場会社では、既に非安定大口株主の影響力が強くなっているのに対して、それよりも小規模な上場会社では、依然として非安定大口株主の影響力が弱いということを明らかにする。このことを踏まえて、論文②は、法令による社外取締役の設置強制によって実際に影響を受けるのは小規模な上場会社であるが、そのような会社に対して社外取締役の設置を強制することに意味はないと主張する。¶002