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はじめに

本解説では、2022(令和4)年11月1日から2023(令和5)年10月31日に出された国際法の論点を含む国内裁判例を紹介する。また、日本と関係のある、あるいは国際法の観点から注目される国際裁判所の裁判例も適宜取り上げる。¶001

Ⅰ 条約解釈

対象期間においては、東京高判令和5・2・16(裁判所Web〔令4(行コ)72号〕、国際法1。原審については令和4年度重判解「国際法判例の動き」255頁参照)において日本・ルクセンブルク租税条約の、東京地判令和5・3・16(LEX/DB 25609311、国際法2)においてICJ規程の解釈が争点となった。¶002

また、工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約(以下、パリ条約)加盟国政府が監督・証明に使用する印章または記号は日本において商標登録できない旨を規定する商標法4条1項5号に基づき、ハラル食品証明用にマレーシア国が使用するマークの商標登録を拒否されたマレーシア政府機関である原告が、上記規定はパリ条約6条の3(1)(a)の誤訳に基づいているとして特許庁を相手取り審決取消しを求める事案も提起された。知財高判令和5・3・7(裁判所Web〔令4(行ケ)10101号〕)は、同規定のフランス語正文は文法的には、対象記号の商標登録を拒否し、また、所管官庁の許可なく使用することを禁止する(公定訳における読み方)とも、所管官庁の許可を得ない対象記号の登録・使用を禁止する(原告の主張する読み方)とも解しうることから、前者の解釈を採る公定訳を誤訳と断ずることはできないとしたうえで、仮に原告の解釈が正しいとしても、その反対解釈として権限ある官庁の許可を受けた出願を当然に登録する義務を条約が課しているとは解されないとして訴えを退けている。¶003