事実の概要
通常、インクジェットプリンターを利用する際にはインクカートリッジを装着する必要がある。インクカートリッジにはプリンターメーカーが自ら製造する「純正品」、第三者が使用済みの純正品を回収・洗浄等したうえでインクを再充塡して販売する「再生品」、第三者が自ら製造する「互換品」がある。インクジェットプリンターのメーカーである被告(キヤノン)は自社プリンターに対応する純正品インクカートリッジも製造・販売していた。原告(エコリカ)はキヤノン製のインクジェットプリンターに対応する再生品インクカートリッジの製造・販売を行っていた。被告は平成29年9月から販売されているBCI-380およびBCI-381シリーズのインクカートリッジ(本件純正品)の仕様を、インクカートリッジに搭載されているICチップに用いられるデータの暗号化および複号の方式を複雑化し、また、記録されるインク残量データを初期化することができないよう変更した(本件仕様変更)。この変更後、再生品を利用する需要者は、インク残量が0になったことを知らせるインクエンドサイン機能と、印刷中にインクがなくなった際に自動的に印刷を停止するインクエンドストップ機能(これらを纏めて「インクエンドサイン等」)が利用不可となった。再生品の回収・製造・販売を行う原告が、本件仕様変更により再生品の販売ができなかった等と主張し、本件仕様変更が独禁法違反にあたるとして独禁法24条に基づく差止めと不法行為に基づく損害賠償を求めて訴えを提起したというのが本件訴訟の経緯である。なお、原告は本件仕様変更が一般指定10項または14項に該当すると主張しており、「独占禁止法24条に基づき、本件純正品につきインク残量データを初期化して再使用することができない電子デバイス等を用いないこと」を差止請求のなかで求めている。¶001