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Ⅰ 最高裁判決

1 性同一性障害者である国家公務員に対する女性トイレ使用制限の違法性

国・人事院(経産省職員)事件(最判令和5・7・11民集77巻5号1171頁、労働法1行政法2)は、トランスジェンダーの人格的利益の保護に関する最高裁判決として重要な意義を有する。事案は、性同一性障害者である職員が女性トイレを自由に利用することについて制限を受けた(本件処遇)として、処分行政庁である人事院の判定の取消しおよび国家賠償を求めたものであるが、判決は、本件処遇を適法として請求を棄却した原審のうち、人事院判定の違法性に係る上告のみ受理し、人事院判定を違法と判断して原審を破棄した(国賠法上の違法性に係る上告は棄却・不受理)。最高裁は、職員は本件処遇によって女性トイレの使用制限という日常的不利益を受けているところ、①女性ホルモンの投与等によって性暴力の可能性は低い旨の医師の診断を受けていること、②職員が執務階から2階以上離れた階の女性トイレを使用することによるトラブルは発生していないこと、③職員の性同一性障害に係る説明会において、職員が執務階の女性トイレを使用することについて明確に異を唱える他の職員がいたとは窺われないこと、④説明会から人事院判定に至るまでの約4年10か月の間、職員による女性トイレの使用について特段配慮すべき他の職員の有無に関する調査が改めて行われ、本件処遇の見直しが検討されたことはないことを判示した上、人事院判定時においては、職員に対して本件処遇による不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらないから、人事院の判定は、具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、本件職員の不利益を不当に軽視するものであると判断している。妥当な判断と解されるが、本判決は、もっぱら本件の具体的事情に即して人事院判定の違法性について判断した事例判断であることに注意を要する。¶001