事実の概要
被告人は、2017(平成29)年5月に原動機付自転車(以下、「本件車両」という)の運転免許を取得したが、交通違反を重ねたことにより2019(令和元)年12月に同免許を取り消され、その後は無免許であった。被告人は、自宅からバスと電車を乗り継いで通学していたが、無免許となっていた期間も自宅最寄りのバス停までの往復に日常的に本件車両を利用し、しかも燃料を節約するためと無免許運転をすることの罪悪感とから次のような走行方法をとっていた。すなわち、往路(登校時)は自宅前付近に駐車させていた本件車両に乗り、同車の原動機を始動させて路上での運転を開始し、道路が下り坂になるA地点で原動機を止めてB交差点までは惰力で道路を走行し、そこで降車して同車を押しながら徒歩で同交差点を渡ると再び同車に乗り、原動機を始動させることなく、下り坂を惰力でC地点付近まで道路を走行し、同地点で再び原動機を始動させてバス停付近まで道路を走行するというものである。被告人は上記の態様で登校途中、自宅前付近に駐車させていた本件車両に乗り同車の原動機を始動させて同車の運転を開始し、B交差点を本件車両を押しながら徒歩で通過後、再び本件車両に乗り、原動機を始動させることなくC地点付近まで来たところで警察官から停止を求められ本件で現行犯人逮捕された。検察官は、自宅を出て本件車両に乗り、同車の原動機を始動させて運転を開始した場面をとらえて、被告人を無免許運転の罪で起訴した。被告人は、公訴事実を認めたものの本件車両の原動機を始動させて走行したのは数十mである旨述べ、また、原審弁護人は、被告人の行為には可罰的違法性がないから無罪である旨主張した。¶001