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はじめに
令和5年度の判例を概観するにあたり、判時2529号から2565号まで、および、判タ1501号から1512号までを主に参照した。必要に応じて裁判所ウェブサイト等に掲載されている判例も掲載した。もっとも、前年度までに紹介された裁判例は原則として割愛した。¶001
Ⅰ 判決手続関係
1 裁判所
⑴ 国際裁判管轄
名古屋高判令和2・12・24(判タ1502号64頁)は、日本の会社が、フィリピンの銀行に対して、同銀行の従業員が行った不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起した事案である。本件訴えは、「財産権上の訴え」であり、同銀行は日本国内に東京支店などの拠点を有しており、「差し押さえることができる被告の財産が日本国内にある」ため、民訴法3条の3第3号により日本の裁判所に管轄権があると認められるものの、本件紛争は日本よりフィリピンに関連性があり、争点の判断のために必要な証拠の大半がフィリピンに存在し、それゆえに被告が日本で応訴する負担は大きく、さらに準拠法がフィリピン法であることに鑑みて、民訴法3条の9の「特別の事情」に当たるため、本件訴えを却下した原審の判断を支持し、原告の控訴を棄却した。¶002