FONT SIZE
S
M
L

Ⅰ 役務委託取引における受託者の保護

現在では、企業が社内の業務を外部に委託するアウトソーシング(委託取引)はごく当たり前のことになりました。中でも、情報通信技術(ICT)の急速な発展によって、ソフトウェアや映像・音楽等のコンテンツの制作を外部に委託し、受託した事業者(受託者)が役務(サービス)を提供して得られる成果物(情報成果物)を委託者へ引き渡すタイプのアウトソーシング(委託取引)は、ますます重要になっています。もっとも、このような委託取引においては、委託がなされる時点で成果物の具体的な内容が十分に確定しておらず、受託者が委託者へ引き渡した成果物について委託者からやり直しを求められるなどの問題を生じることがあります。¶001

そこで、このような役務委託取引における情報成果物に係る権利等の取扱いについては、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(以下「役務委託取引ガイドライン」といいます)に公正取引委員会の考え方が示されています。¶002

なお、役務委託取引については、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)による規制も課されています。また、2024年中に施行見込みのいわゆるフリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)も、個人や一人会社で業務委託を受けるフリーランスの事業者(特定受託事業者)への委託について、下請法と基本的に同様の規制を課しています。¶003

役務委託取引ガイドラインの全体像
L2404001_表1.svg

役務委託取引ガイドラインにおける「役務の委託取引」とは、(1)役務提供の委託取引と(2)情報成果物作成の委託取引からなる、とされています(同ガイドライン「はじめに」(注2))。例えば、コンピュータへのデータ入力を委託する場合は(1)に、ソフトウェアの開発を委託して成果物の納入を受ける場合は(2)に、それぞれ該当します1)¶004

なお、役務委託取引ガイドラインによれば、優越的地位の濫用として問題となるかどうかは、取引当事者間に取引上の地位の優劣があるか否か、取引上優越した地位にある事業者が当該地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えているか否かを踏まえ、個別具体的な取引ごとに判断され、役務を提供する業種の別によってこの指針の考え方が異なるものではありません(同ガイドライン「はじめに」(注3))。¶005

役務委託取引ガイドラインでは、委託者による優越的地位の濫用行為として「代金の支払遅延」や上記で例に挙げた「やり直しの要請」等7つの行為について考え方が示されています。以下及びでは、7つの行為のうち知的財産権の帰属等に関わる問題として「情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」について考えてみます。¶006