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本件の被告人は、道路交通法違反の事実により、第1審において罰金9000円の刑に処せられる一方、2年間その刑の執行が猶予された。これに対して検察官が量刑不当を理由に控訴し、その審理において、刑訴法382条の2第1項にいう「やむを得ない事由」があると主張して、第1審では取調請求していない被告人の前科調書等の取調べを請求した。控訴審はこれらを取り調べたうえで、犯行の罪質、態様、被告人の交通違反歴等にかんがみると、罰金刑の執行を猶予すべき特段の情状があると認めることはできないとして原判決を破棄する一方、自判して罰金9000円の刑に処した。弁護人の上告に対して最高裁は、控訴審が前科調書等につき「やむを得ない事由」の疎明があったものと判断したのか否かは必ずしも明らかではないとしたうえで、次のように述べて上告を棄却した。「〔刑訴法393条1項ただし書の定める〕『やむを得ない事由』の疎明の有無は、控訴裁判所が〔同規定〕により新たな証拠の取調を義務づけられるか否かにかかわる問題であり、同項本文は、第1審判決以前に存在した事実に関する限り、第1審で取調ないし取調請求されていない新たな証拠につき、右『やむを得ない事由』の疎明がないなど同項但書の要件を欠く場合であっても、控訴裁判所が第1審判決の当否を判断するにつき必要と認めるときは裁量によってその取調をすることができる旨定めていると解すべきである〔そのため前科調書等の取調べを違法とはいえない〕」。
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