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本判決は、逮捕の際に警察官が被疑者に対し暴行傷害を加えた違法があったとしても、そのために公訴提起の手続が無効になるとはいえないとしたものである。
被告人は、道交法の制限速度違反で現行犯逮捕された際、警察官により暴行を加えられ、約2週間の入院加療を含む約1か月の休養を要する、ウィップラッシュ傷害(頸椎変型症の一種)を受けた。第1審(大森簡判昭和40・4・5刑集〔参〕20巻6号702頁)は、道交法違反の公訴事実は認めながら、「本件の場合の如く軽い事案に対して不正当な逮捕を敢行し、その際に必要がないのに暴力を振って被告人に傷害を与え、その威力の影響下において取調を行ったという事態を一全体として考察するときは、……〔それは憲法31条に違反するものというべきであり〕そのような訴訟事件においては被告人に刑罰を科することは同条により許されない」とし、刑訴法338条4号を準用して公訴棄却を言い渡した。しかし、第2審(東京高判昭和41・1・27前掲刑集〔参〕707頁)は、本件逮捕自体は適法であり、その過程で生じた暴行は遺憾なことではあるが、これをもって「ただちに憲法第31条に規定する法の公正な手続による裁判の保障のために公訴権の行使を許さないとする訴訟手続における違反であるとは解せられない」として、破棄差戻しを言い渡した。これに対し弁護人が上告したが、最高裁は、次のように述べて、上告を棄却した。
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