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はじめに

2023年に、最高裁は、性自認をめぐる法的利益について、注目すべき2つの判断を下した。まず、10月に、大法廷は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けることを「個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益」と位置付けたうえ、生殖機能喪失の「手術要件」を課す「特例法」の規定1)を違憲とする決定を下した2)(以下「違憲決定」という)。これにより、特例法の改正が今後迫られることになる。また、7月には、第三小法廷において、トランス女性の女性トイレ使用等に係る行政措置の要求を認めなかった人事院判定は違法と判断された3)(以下「経産省事件最高裁」という)。特に注目すべき点は、裁判官全員から補足意見が出され、違憲決定と同様に、性自認に即して社会生活を送る法益の重要性が強調されたことであり、抽象論だけでトランス女性とシス女性の利益を対立させる理論構造にも一定の歯止めがかかった。¶001