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Q&A

Q

上場会社である当社に対して、アクティビストファンドと認識されているファンドから当社の株式を取得している旨の連絡がなされるとともに、当社代表取締役社長との間での面談の機会を設定してほしいとの打診を受けております。どのような点に留意して対応を行えばよいでしょうか。

¶001

A

アクティビストファンドから株式取得の連絡を受けた場合には、アクティビストファンドの行動の傾向を踏まえ、まずは自社の状況について客観的に分析を行い、アクティビストファンドがどのような点に着目して自社の株式を取得しているのかを把握することが重要となります。また、面談については、誰が対応するべきであるのか等多くの留意事項がありますが、必ずしも最初から代表取締役の対応が必要となるわけではなく、個別具体的な状況に応じた判断が必要となります。そのほか、アクティビストファンドによる株式取得状況を観察しつつ、場合によっては買収防衛策による対応も検討することになります。

¶002

解説

Ⅰ はじめに

日本企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて2014年と2015年にそれぞれ採用されたスチュワードシップ・コード1)スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(令和元年度)「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」(2014年2月26日策定、2020年3月24日再改訂)。とコーポレートガバナンス・コード2)東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2015年6月1日施行、2021年6月11日改訂)。は、日本の上場会社と株主との対話の促進に大きく寄与しています。他方、両コードを背景として、日本の上場会社の株式を取得するアクティビストファンドの動きも活発化しており、上場会社における株主構成の変化や、機関投資家の議決権行使行動の変容、平時導入型買収防衛策に対する投資家の批判的な評価などの環境変化とも相まって、ファンドアクティビズムに対する上場会社による対応は年々難易度を増している状況にあります。また、昨今、買収防衛策に関する議論も深化しており、これを受けた実務動向の理解も、アクティビストへの対応にあたり不可欠となります。このような状況を踏まえ、本解説においては、上場会社によるアクティビストファンドへの対応における留意点について説明します。¶003

Ⅱ アクティビストファンドに対し意識すべき事項

1 アクティビストファンドの一般的な行動

(1) アクティビストファンドの行動原理と初期的な動き

アクティビズムとは、一般に、上場会社の株主が、当該上場会社(株式の発行会社)に対して、株主権の行使や意見表明等を通じて、会社の経営に影響を与えようとする考え方のことをいい、アクティビストとは、アクティビズムに基づく行動を実際に行う株主のことをいい、近時は一定のファンドがアクティビストとして活動することが多くなっています。アクティビストファンドの行動原理として着目すべきは、アクティビストファンドもファンドである以上、資産運用におけるリターンを追求する必要があるため、自己の運用する資産を増加させるべく、アンダーバリューされている株式を取得して、高い価格で売却する(Exitする)という行動が基本となる点です。¶004

典型的なアクティビストファンドの初期的行動として、対象となる上場会社の株式を取得した上で、まずは会社に対してIR面談を求めてくるケースが多く見られます(ただし、株式取得が確認できない状況で面談要請が行われる事例もあります)。そのような面談における対話を通じて、会社の状況に対する質問を行ったり、場合によっては会社に対して資本政策や事業上の提案を行うこともあります。¶005

(2) アクティビストファンドによる行動の先鋭化

アクティビストファンドの行動が先鋭化してくると、株式の取得を通じて議決権割合を増やした上で、会社法上の権利行使などを通じて会社に対するプレッシャーを強めていくことが一般的です。その中でも正攻法といえる行動としては、会社の定時株主総会において各種の株主提案(会社303条~305条)を提出することが挙げられます(本連載第3回3)石﨑泰哲「上場会社における株主提案への対応」有斐閣Onlineロージャーナル(2023年)(YOLJ-L2301004)参照)。かつては、株主提案が可決される事例はほとんどなく、株主の主張を株主総会や株主総会参考書類を通して他の株主にアピールすることを主たる目的とする場合も多かったものと思われますが、近時においては、株主の提案する社外取締役の選任議案が可決されたり、株主提案によって経営権が交代するような事例も出てきています。また、臨時株主総会の招集請求(会社297条)が行われることも増えてきているという点にも留意が必要です。特に、会社の業務および財産の状況を調査する者(業務調査者)の選任(会社316条2項)を株主総会決議により行う場合は、臨時株主総会決議によることが必要となりますので、業務調査者の選任議案を臨時株主総会招集請求権の行使を通して実現しようとする動きに注目が集まっています。¶006

その他、会社の経営陣の賛同を得ないまま、公開買付け(TOB)を実施することで、一般株主からの株式取得を行おうとする事例も増加しています。公開買付け(TOB)によって株式の保有割合を増加させて、会社への影響力を強めるための動きになります。¶007

2 平時から意識しておくべきこと

上記1(1)で述べたように、アクティビストファンドの行動は、アンダーバリューされている株式を取得して、高い価格で売却する(Exitする)ことが基本となるため、そもそも株価がアンダーバリューされていなければ株式取得の対象とされない可能性が高くなります。その意味では、常に株価向上策を意識し、IR等を通して株価に会社の事業の価値や将来性を適切に反映させるように努力することが、平時対応の基本となります。¶008

もっとも、株価の高低は、会社の企業努力のみで常にコントロールできるわけではなく、実際には外部環境の影響も大きいということは明らかです(例えば、コロナ禍の状況で多くの会社の株価が下がったことは、典型的な例として挙げられます。実際、コロナ禍においては、米国でも、そのような状況下におけるファンドアクティビズムを警戒して米国型の買収防衛策〔ポイズン・ピル〕を公表する企業が増加したと言われています)。また、資本構成に弱点がある会社など、株価とは異なる文脈で、アクティビストによるターゲットとされることもありえます。¶009

そのため、上場会社においては、実際にアクティビストと対峙しなければならない状況を常に想定して準備を行っておくことが重要です。例えば、社外取締役を含む役員間で、アクティビストのターゲットとされる可能性を踏まえて、会社の事業状況や外部環境について常に意見を交換しておくことや、ターゲットとされた場合の対応について意識の共有を行っておくことが重要といえるでしょう。¶010

Ⅲ アクティビストファンドの動きに対する具体的対応

1 アクティビストファンドによる株式取得の状況の把握

(1) アクティビストファンドによる株式取得とアクティビストファンドに対する質問

アクティビストファンドに株式を取得されることそれ自体は、アクティビストファンドの活動が活発化している現状の下にあって、どのような会社においてもいつ何時でもありうることです。アクティビストファンドが、最初は純投資目的で株式を取得することもありますし、「6か月前より引き続き総株主の議決権の1%以上又は300個以上の議決権を有すること」という株主提案権の行使要件を常に満たしておくために、多くの上場会社の300単元の株式を保有しているアクティビストファンドの存在も指摘されています。¶011

アクティビストファンドによる接触があった場合における、当該アクティビストファンドの株式保有について確認する方法として、当該アクティビストファンドに対して質問を行うということが考えられます。アクティビストファンドが、スチュワードシップ・コードを受け入れている場合には、スチュワードシップ・コードの脚注15において「株式保有の多寡にかかわらず、機関投資家と投資先企業との間で建設的な対話が行われるべきであるが、機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、自らがどの程度投資先企業の株式を保有しているかについて企業に対して説明することが望ましい場合もある」とされている点を参照しつつ、回答を求めることも有用と考えられます。¶012

(2) 株主名簿の確認・情報提供請求

アクティビストファンドによる株式保有の状況を確認するため、直近の株主名簿を確認することも考えられますが、原則として、上場会社においては株主名簿が確定するのは半期に1回だけであるため、常に最新の情報を入手することはできません。そこで、上場会社が主体となる情報提供請求4)上場会社は、社債、株式等の振替に関する法律277条に基づき、加入者の口座について利害関係を有する者として、正当な理由がある場合には、加入者の口座を開設する口座管理機関が定める費用を支払い、当該口座管理機関が備える加入者の振替口座簿に記録された事項に係る情報提供の請求を、証券保管振替機構を通じて行うことができます。を行うことによって、アクティビストファンドによる株式の保有状況を確認することが考えられます。¶013

もっとも、これらの方法はアクティビストファンドが名義株主となっている場合には有効な方法となりますが、信託銀行名義で株式を保有している等、アクティビストファンドが株主名簿上の株主になっていない場合には、保有状況を正確に確認することはできません。¶014

(3) 大量保有報告書

上記のように、アクティビストファンドが株主名簿上の株主になっていない場合には、アクティビストファンドによる実質的な株式保有状況を確認する必要があり、そのためには大量保有報告書やその変更報告書を確認することになります。株券等保有割合が5%以上でなければ報告対象とならないこと、株券等保有割合の1%の増減を含む報告義務が発生してから提出までに5営業日の猶予期間があること等、上場会社側から見ると不便な点もありますが、現状の制度下においては、(アクティビストファンドからの回答が得られない、あるいは回答の信用性が担保されない場合には、)大量保有報告書やその変更報告書が、アクティビストファンドによる実質的な株式保有状況を確認するための、唯一の信頼できる確認方法ということになります。¶015

2 具体的な対応における留意点

(1) 初期的な連絡や面談要請に対する対応

アクティビストファンドから連絡を受けた場合には、まずは自社の状況について客観的に分析を行い、アクティビストファンドがどのような点に着目して自社の株式を取得しているのかを把握することが重要となります。¶016

また、アクティビストファンドとの面談要請に対しては、そもそも対応する必要があるのか、誰が対応するべきであるのか、面談においてどのような内容に言及すべきであるのか等多くの検討事項がありますが、保有株式の割合等の具体的状況に応じて判断すべき事項が多く、専門家の助言を得ることが適切であろうと考えられます。代表取締役との面談が求められたとしても、必ずしも最初から代表取締役が対応することが必然ではありません。¶017

面談において最低限押さえておくべき事項としては、①面談の内容は記録化しておくこと、②面談時に会社の秘密情報や未公表の重要情報に触れることは原則として避けること、という点が挙げられます。①は、面談の内容が、今後の対話の基礎となるほか、仮にパブリックキャンペーンや法廷闘争に発展した場合における主張の基礎となることが多いためです。②については、インサイダー情報の管理の観点等から重要な留意点となります。¶018

(2) アクティビストファンドの行動が先鋭化してきた場合の留意点

アクティビストファンドの行動が先鋭化してきた場合の対応として、アクティビストファンドの主張に対する会社としての考えを是々非々でまとめることが必要です。アクティビストファンドの主張の中には一定の合理性があるものが存在している可能性もあり、そのような主張についてはむしろ会社として積極的に取り入れてしまうことで、アクティビストファンドとの争点を単純化していくことも有効です。他方で、会社経営を付託されている取締役・取締役会として、企業価値や株主価値の確保・向上にマイナスの影響を与える主張に対しては毅然として(かつ説得的な説明を尽くした上で)拒否する姿勢を示すことが重要となります。¶019

このような対応に際しては、社外取締役の意見を尊重することも重要となります。アクティビストファンドの活動状況にもよりますが、経営権が左右されるような状況下においては特に経営陣と一般株主の関係に利益相反が生ずる可能性があり、社外取締役によるモニタリングが機能していることも重要となります。¶020

(3) 買収防衛策による対応

アクティビストファンドへの対応として、買収防衛策による対応が想起されることも多いかと思われます。実際、平時に導入している買収防衛策による対応を行う事例のほか、近時は、買収防衛策を有事に導入することで、一般株主への十分な説明がなされないまま実施される買付行為に対抗する事例もめずらしくなくなってきています。この場合、会社や一般株主への情報提供や熟慮期間の確保のための手続に従うことを要請しつつ、経営陣が正当な交渉力を持つためのツールとして買収防衛策を利用することになり、こういった買収防衛策については、裁判所も肯定的なスタンスをとっています。¶021

買収防衛策については、近時多くの裁判例が出現しており、本解説において、その詳細な紹介を行うことは困難ですが、裁判所のスタンスとして特に重要なのは、買収防衛策に基づく対抗措置を正当化するためには株主の意思を確認する必要があるという点です。特に有事導入型の買収防衛策においては、有事下で株主総会を開催して株主意思確認を行うことが必須の状況となっていますので、この点を意識してアクティビストファンドへの主張を構成する必要があります。¶022

Ⅳ 最後に

ファンドアクティビズムは、今後も活発な状況が継続すると予想されるところです。本解説で述べるように、アクティビストファンドへの対応については、アクティビストファンドの行動原理をしっかりと理解した上で、平時における準備はもちろん、有事といえる状況になった場合に、可及的早期に適切な対応を行うことが必要となります。その際に特に意識すべきは、企業価値および株主共同の利益を守るために適切な対応をとることであり、本解説において述べた点が特に重要となると考えられます。¶023