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Ⅰ はじめに

経済産業省により2023年8月31日に公表された「企業買収における行動指針」(以下「本指針」という)は、M&Aに関する公正なルール形成に向けて経済社会において共有されるべき原則論およびベストプラクティスを提示する(本指針1.2)という観点から、その第3章(別紙1を含む)で買収提案1)を巡る取締役・取締役会の行動規範につき考え方の整理を行うとともに、その第4章で買収に関する透明性の向上の在り方を論じている。これらの内容は、2005年に公表された「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(経済産業省=法務省)や2008年に公表された報告書「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」(企業価値研究会)では詳しく扱われなかったものであり、本指針の重要な特徴の一つであるといえる。以下では、本指針第3章(別紙1を含む)および第4章で示された内容について、理論的な観点から特に重要性が高いと思われるものを中心に検討を試みる。¶001