FONT SIZE
S
M
L

Ⅰ はじめに

企業買収に関わる様々なガイドラインを経済産業省は策定してきたが、どの指針、報告書もその時々の時代背景を反映し、ソフトローとして経済社会への影響力を持つものであった。筆者も参加した2019年6月公表の「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「公正M&A指針」)はマネジメント・バイアウト(MBO)や上場子会社の非公開化を主として論じたが、支配株主との利益相反や少数株主保護が課題となっていた経済社会情勢を反映していたと言えよう。2023年8月公表の「企業買収における行動指針」(以下「行動指針」)の問題意識は「M&Aによるリソース分配の最適化や業界再編、資本市場における健全な新陳代謝が進むことが期待される」との第6章の文章に象徴されている。再び成長軌道に戻るためには効率的な企業運営が必須であり、非効率が放置されている企業における経営支配権の移動は、経営陣や関係者の意に沿わないものであっても必要との問題意識が行動指針全体に流れている。また外国為替及び外国貿易法の2019年改正により国の安全等を損なうおそれがある買収への対応がなされ、安全保障面でのブレーキが一定程度整備されたため買収促進にアクセルを踏む方向での議論を進められたと策定に関与した一人として感じている。¶001